相続回復請求権について

代表弁護士 豊田 耕史 (とよだ こうじ)

相続権を侵害された場合、法定相続人や被相続人の包括承継人(以下にて説明します)は、「相続回復請求権」を行使することができます。

相続回復請求権とは、その名の通り、すでに分割されてしまった相続財産の自己への分配を求める権利のことです。

ただし、相続回復請求権はいつでも好きなタイミングで行使できるわけではなく、「相続権を侵害されたと知ったときから5年間」、「侵害を知らなかったとしても相続開始から20年」の経過により、行使できなくなるとされています。

今回は、この相続回復請求権について詳しく見ていきましょう。

相続権を侵害されるとはどういうことか?

では、ここでいう相続権の侵害とはどういったことを指すのでしょう?

多くは、被相続人の死亡を知らなかった場合、自身が相続人だと気付いていなかった場合に相続権の侵害が発生します。

たとえば、前妻(夫)の子であったため、他の相続人にその存在を知られておらず、勝手に遺産分割されてしまった場合です。

その他にも、すでに相続人としての権利を失っているにも関わらず、財産を自分のものとしている相手がいる場合も、まさに相続権の侵害といえます。

相続人としての権利を失っている方というのは、相続欠格に該当している方、被相続人の生前に相続廃除をされている方を指します。

こうした事実が判明した場合、相続権を侵害されたとして、相続回復請求権の行使ができます。

相続回復請求権の請求権者

相続回復請求権を行使できる請求権者は、本当の相続人(真正相続人)はもちろんのこと、相続分の譲渡を受けた方、被相続人の包括承継人とされています。

被相続人の包括承継人とは、遺言執行者(遺言どおりに相続財産を分配する者)や相続財産管理人(相続人のいない方の相続財産を管理する者)などを指しています。

なお、相続回復請求権というのは、相続権という被相続人から包括承継された権利の回復を指しているため、個別に相続財産を譲り受けた特定承継人は、相続回復請求権をもっていないと考えられています。

わかりやすく言えば、特定の不動産だけを遺贈された、という方は特定承継人となり相続回復請求権の行使ができません。

この場合は、相続回復請求権ではなく損害賠償請求権や不当利得返還請求権を行使します。

相続回復請求権の相手方~表見相続人~

相続回復請求権の相手方は、単純に考えれば相続権を侵害した方となるのですが、実は民法の条文においては特に具体的な記載がされていません。

よって、様々な解釈がなされています。

まずは、「表見相続人」です。

表見相続人とは、以下に該当する方を指します。

  • 相続欠格・相続廃除された
  • 事実とは違う出生届・認知届により子になった
  • 法的効力を有していない養子縁組

これらの該当する方は、パッと見だけでは相続人ですが、真正相続人ではありません。

表見相続人は相続権がないにも関わらず、相続人であると権利を主張し、真正相続人の相続権を侵害することがあります。

特に、遺言の改ざんなどを行い相続欠格とされた方が、被相続人に暴力をふるい相続廃除とされた方が、自分にはまだ相続権があるとし、真正相続人の権利を侵害、トラブルの発端となるケースが過去に何件かありました。

相続回復請求権の相手方~他の共同相続人~

次が、上記の例よりも多く見られる、「他の共同相続人」が相続権侵害をしている場合です。

他の共同相続人とは、わかりやすく言えば自分以外の真正相続人のことです。

共同相続人のうちの1人、または自分以外の複数名が、相続財産のうち自分の相続分よりも多くの相続財産を占有などし、他の共同相続人の相続権を侵害している状態です。

たとえば、遺産分割協議前であれば、相続財産というのは各相続人の共有財産となっています。

さらにいえば、各相続人の法定相続分を超える部分は、1人の相続人が勝手に占有できない、つまり、単独の権利者とは言えないのです。

それにも関わらず、単独の権利者であるかのように相続財産を占有等しているとなれば、当然相続回復請求権の対象、つまりは相手方となります。

善意・無過失の共同相続人に限る

ただし、注意しなければならないのが、相続回復請求権の相手方となるのは、善意・無過失の共同相続人に限ります。

ここでいう善意というのは、ある事実を知っていることです。

今回の例で言えば、真正相続人の相続権を侵害している認識がないことです。

さらに無過失であった場合です。

悪意の共同相続人(真正相続人の相続権を侵害している認識があり、さらに過失がある)は、相続回復請求権の行使にて解決を図ることはありません。

なぜなら、相続回復請求権には時効期間が定められており、請求権者にとって不利になってしまいます。

よって、悪意の共同相続人に対しては、時効期間の定めのない「遺産分割協議」によって解決すべきと考えられています。

少し難しいと感じてしまった方も多いのではないでしょうか?

相続回復請求権の行使が必要になること自体が稀ではありますが、もしお困りの方は当事務所にお電話にてご相談ください。

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